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大西祥平氏インタビュー (2/2)

09/12/22 20:21



【大西祥平氏インタビュー後半】

ジャンルコミックの最前線『コンビニ漫画』

―それでは、ここからは大西さんが今興味を持っているものをお聞きしたいんですけど・・・ズバリ何ですか?

「小池一夫伝説」とか、ジョージさんの選集の監修とかは基本として……今の今なら、研究書として「コンビニ漫画大全」とかやってみたいです。同人誌で全部フルカラーでお金使ってコンビニ向けの描き下ろし廉価版漫画を全部リスト化して体系的に紹介したいですね。

―コンビニ漫画ってある時から突然増えだしたじゃないですか?この現象はそもそも何なんですか?

これは前に長い原稿で発表したことがあるんだけど、簡単に言うと、コンビニが本を売る場所になったってことなんですよ。一般的には「マイファーストビッグ」シリーズが1999年に小学館から出たのがきっかけって言われてるんだけど、もっと調べていくと、「小池書院」っていう小池一夫先生の出版社はその前から積極的にコンビニに向けて展開していたりするし、さらにさかのぼると、本質的なルーツは駅の「キヲスク(キオスク)」っていうことになると思うんですよ。「ゴルゴ13」の廉価版って、昔からよくキオスクに置かれてたでしょ。本屋に並ぶ単行本とは別のバージョンが。ようするに普通の本屋より、もっと人の流れの激しいところでペーパーバックみたいに忙しい人がパッっと読み捨て出来るように作ったこのキオスク版のゴルゴがコンビニ漫画の元祖じゃないかと。そうなると、この(現物を手に)1970年に小学館のビックコミックの増刊扱いで出た「ゴルゴ13」の廉価バージョン第1弾がおおよそのルーツになるんですよ。もう39年前かな。

―なるほど、新幹線に乗る前にとか。

うん、大体がキオスクだよね。いわゆる書店流通とは別のところから産まれたモノ。
ゴルゴの再録本なんかがずっと育んできたそういう下地に、「美味しんぼ」の再編集本が出て、昔の漫画を現在のテーマに合わせて再録すれば売れるんだってなったの。

―確かに「こち亀」とかセレクションみたいなので多いですよね。だけど、売れるならなぜ単行本ではなくコンビニ漫画なんですかね?

最初は出版社サイドは危惧してたんですよ。わざわざ本屋で売れてる漫画の中身をコンビニで廉価販売して、本屋の売り上げが下がらないか?って。ところが、ためしにデータをとってみたら、それがあんまり影響なかった。何故かっていうと、コンビニで買ってた人達はもともとマンガを読まない人達だったの。本屋に行かない人達が新しいお客として増えたんですね。コンビニ弁当温めてもらいながら「これも読もうかな」って買ってくようになったの。

―なるほど!僕も最近気づいたんですけど世の中に漫画を読んでる人って思っている以上に少ないんですよね。

そうそう(笑)。確かにコンビニそのものが増殖すると、本屋はダメージを受けるんだけど大枠でいうと本屋の客がコンビニに流れたんじゃなくて、本屋には用事がないって人達に向けた新たな需要の開拓なんですよ。

―あっ、確かに読んでます!ライブハウスとかでも普段マンガを読まなさそうなバンドマンがリハ中とか楽屋でよく読んでますね。

「コンビニ漫画」とは

―初めは「美味しんぼ」のような再録モノとお聞きしましたが今は色んなモノのがありますよね?

そう。革命的だったのが5年前くらいからポツポツと出てきた「描き下ろしマンガ」っていうジャンル。大きくわけるとヤクザ・芸能・事件・オカルトの4系統が出てきた。

―それらのシリーズに「漫画化」というのがハマったんですね!

まさにそうだろうね。内容は「こんな事がありました」っていう実録モノに近いんだけどオカルト路線はそもそも創作的な要素があるわけだし、事件モノでも作家性を感じさせる作品がけっこう出てきてるんですよ。例えば「林眞須美事件」なんかはさ、出版社や作品によって「有罪」「冤罪」「どちらとも言えない」みたいないろんな角度があって、単に事件をなぞっただけじゃないんですよ。
単なる実録の枠を超えて、大きな漫画のジャンルとしてのうねりみたいなのが出てきてるところだと思うんですよ。
そこで僕が心に決めてるのは「『描き下ろし』と書いてあるものは全部買う!」と(笑)

―それでこんなにコンビニ漫画があるんですね!(笑)



※ほんの一部です。

「再録」は単行本を買えば済む話じゃない?だけど「描き下ろし」のコンビニ漫画っていうのは、いわば現代の貸本マンガみたいなものなんですよ。僕の捉え方では。一般の書籍流通とは違うところで巻き起こった、新しいカウンター的な出版流通の流れっていうか。

―それに凄い勢いで増えてますもんね。全部出版社が企画をしてるんですかね?

編集プロダクションが作る場合もありますよ。編プロが「こんなの作りましょうよ」って、出版社とやり合う場合もあるし出版社が「こういうシリーズ出しません?」っていう場合もあるし。実際、最近は僕も仕事で関わってるのもあります。

―マーケットとしては拡大してきてるんですか?

現場の編集者でも、すでに衰退しつつあるって言う人もいるしまだこれから来るっていう人もいるし・・・ちょっと分からない。80年代初頭の手塚治虫発言を借りると、今がいわゆる「ルネッサンス期」なんじゃないかな。だからこのまま現状維持か下がるか上がるかはちょっと分からない。でも、僕がコンビニで買ってる平均冊数は減ってはいないですよ。むしろ増えてる印象です。

いまハマッてるのはヤクザ漫画ですね

―僕はコンビニ漫画っていうと「ヤクザ漫画」のイメージがあるんですよね。実はそういったジャンルはあまり読まないんですけど、ヤクザ系の書籍を漫画化したってのが多いんですか?

そういうのもあるけど、最近は原作から丸ごとの描き下ろしも多いですよ。


※例)「実録王道ヤクザ伝 山口組六代目司忍」(竹書房)

白黒の人物写真に、「~~ヤクザ伝」っていうのがこの竹書房のシリーズの決まったフォーマットなんですよ。

―ははは、凄いジャケットですね!これがヤクザもののコンビニ漫画の定番なんですか?

うん、白黒写真っていうビジュアルは「実録」な匂いがするんですよ。いちおうコンプリートしてるんで、棚に並べて置いてみたりして。


※「ヤクザ漫画」のパーフェクトコレクションです。

―うわっ、並べると凄みが分かりますね(笑)



でしょ。

―だけど、ヤクザ漫画がコンビニで買えるって妙な時代ですよね。

これって、いわゆる、大人のヒーロー漫画なんだと思うんですよ。とにかく、いさぎいいほど「女」が出てこない!闘う話、抗争の話、成り上がっていく「友情・勝利」の話が中心なんですよ。一般誌の男系マンガって、実はけっこうコイバナとかしなきゃいけないじゃないですか、それを全部振り切ってるから読んでて気持ちいい。本当の意味で男らしさを追求した……
混じり気ない、純度の高いヒーロー漫画なんですよね。

―なるほど、ヒーロー漫画ですか!

あと黒澤明の「羅生門」で同じ事柄でも人の立場によって全く違うように見えてる、真実は……っていう「藪の中」的な構図があるでしょ?戦後のヤクザの世界っていうのは某山口組が関わる歴史上の大きなイベントごとにたいがいどこかでリンクするんですよ。それを色んな人の視点から読んでいくっていうのはドラマティックな体験ですよ。例えば、組長狙撃事件があると「組長を撃ったヤクザ」と「撃たれたヤクザ」と「報復したヤクザ」といった話があるわけで、
当事者によって全然捉え方が違うんだよね。

―双方のドラマが読めるんですね。

その事件で報復する側の話でも「守りきれなかった」と思ってる人もいれば「おし、チャンスだ!」ってのし上がる人たちもいれば、それを全く違うところから目撃している人もいれば、みたいな。R・アルトマン監督なんか目じゃない壮大な群像劇ワールドなんですよ。しかも、読めば読むほどヤクザ漫画で得たヤクザ知識が強化されていくから、より面白くなっていくんだよね。

―読者も成長していくわけですね。

まず騙されたと思って20冊くらい読んでみたらいいと思いますよ。最近は別の版元もこの実録ヤクザ路線シリーズに参加し始めて、追いかけるほうも大変なんだけど(笑)

―そのうち、日本のコンビニはヤクザの自伝で埋め尽くされていると(笑)

そうそう、世界でホントに日本だけですからね。ギャングスターの生涯が次々とコミックになって全国流通してるのは。これはコンビニの本棚そのものが新しい「売り場」として進化した証拠だと思いますよ。


これからの「ビ二漫」

―では、最後に「コンビニ漫画の魅力」ってのをお聞きしたいんですが?

あっ、ちなみにコンビニ漫画に関しては僕は「ビニ漫」って呼び方を提唱してまして。あくまで外野から勝手なことを言わせてもらってるだけですけど、ビニ漫は今、出版界で起こっている事で一番パンクなムーブメントだと思うんですよ。
「実録 ヅラをかぶった芸能人」とか、殺人犯が自分で原作を書いたドキュメントものとか、パンクとかしか言いようがないでしょ。漫画っていうものは、もともとは反体制っていうか大衆向けでも実は「毒」みたいなとこがあると思うんですよ。
近年著しいアカデミズム化に対して自然発生的にバランスとっているようなところもあると思うんですよね。

―なるほど、そこにビニ漫が当てはまると。確かにヤクザ漫画っていうのもまさにそうですもんね。

うん、コンビニっていう場所と全く正反対にあるようなモノまでどんどん本になっているのが凄いよね。

―また扱ってるジャンルも一般漫画と少し違いますもんね。

あと、基本だけど「凶悪犯罪シリーズ」とか。



こうやって背中を並べて見るだけでも、圧巻でしょう。

―コンビニ漫画って現段階で、こんなにもの種類が出してしまっているとネタが無くなるってことにならないんですかね?

まあ、ニュースのネタがある限り、そこは大丈夫なんじゃないかな?凶悪犯罪ファイルシリーズも凶悪犯罪が起こる限り続いていくだろうし明日、ハヤマさんがすごい事件を起こせばハヤマさんの凶行の瞬間も3ヶ月後ぐらいには漫画化されてるかもよ(笑)。

―あらま(笑)。次第に「ネタ無かったのかよ?」っていうような本も出てきそうですね。

でも作家性の高い人たちがいたり、中には綿密な取材に裏打ちされたルポものもあって、「500円じゃ安い!」ってのもあるんですけどね。もっと高くてもいいですよ。

―そうですよね、ワンコインですもんね。

だけど、僕の場合は2~3000円分ビニ漫を買って、ついでにパンとかお茶とか買うみたいな感じで、完全に本末転倒だから。コンビニに本を買いに行ってるっていう。普通の書店売りマンガも大量に買った上での話だから、正直「うっ、この負担はデカイ」って思うんだけど、そこをもう一歩前に出るっていうかね。

―このまま全てビニ漫を集め続けていくとなると・・・恐ろしい負担になりますよ!

そうなんだけど、20年後とかに研究者の間で「大西さんが現物全部持ってるらしいぞ!」ってなったら気分がいいよね(笑)

-完-

大西祥平
1971年生まれ。書店員(タコシェ)、ライター、漫画原作者。自称・漫ぶらぁ~。
過去の劇画雑誌を漁っておもしろマンガを紹介したりする稀有な人。
また、京都精華大学マンガ学部マンガプロデュースコース学科講師も勤める。




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