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手塚能理子さん(青林工藝舎社長)インタビュー

09/02/12 18:16

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デビューを聞かれたら、胸張って「アックスです」と答えて欲しい


―青林工藝舎が出来るにあたって、色々大変なことがあったそうですが?

 そうですね。結局急に前の会社を辞めることになって。それで「居場所が無いからこれでもうみんなバラバラになるんだ」って話をしてたら、ガロの時から関りのある人達がお金を出してくださることになって、それで株式会社を作ることができたんです。奇跡みたいな話ですけど。
何の準備も出来てなかったので、最初はホントに六畳と台所の1Kのマンションを借りて。当初は7人いたんですけど机も4つしかなくて、あとは台所にどっかで拾ってきた座り机とか地べたで仕事してました。

―なんか部活みたいですね

 会社に遊びに来た人たちが「アジトだ」って言ってて(笑)。活動を始めるに当っても、運転資金があまりなかったので、最初はみんなバイトしながらやってました。それで給料が払えたのは半年後、それも1人5万円でした(笑)

―じゃあ、お金よりも熱意で働いてた感じだったんですね。

 周りの人が色々と意見を出してくれたり励ましてくれたり、というのも大きかったです。作家さんも、「早く作品を発表できる場を作ってくれ」って言って下さったし。やっぱり一番困ったのも作家さん達だと思うんですね。
10月に立ち上げて、12月に故・山田花子さんの単行本「からっぽの世界」を出して翌年の2月にはアックスの創刊号を出してましたから。とにかく皆夢中でやってました。不安はいっぱいだったけどでもまた活動できるとは思っていなかったのでホントに嬉しかったです。

―とにかく早くしなければと。

 まずは会社にしたので速効で動かなければならなかったし、それに不安に押しつぶされそうだったので、それを払いのけたい、という気持ちも正直強かったかも。続くかどうかなんて保証もないところで、それでも作家さんたちは「描く」とおっしゃってくれたので、とにかくやるしかないって感じでした。「もって半年だな」なんて言う人もいましたが、なんとか10年続いたので「あー、あのときあきらめないで良かったな」って、一息つけたような感じです。

―だけど、そんな不安な状況でも「やるしかない」とさせたのは何処から来ていたんですか?

 自分たちはこれしかできないし、それを続けることが大袈裟ですが「生きること」だと思ってるんで。だから安い給料でも仕事を優先することもできるし。もともと贅沢することにはあまり興味の無い人が集まってるし、欲しいモノといったってたかがしれてるようなものだし。それに作家さんたちが応援してくれた、というのも非常に大きかったですね。一緒に住み心地の良い場所を作ろう、という後押しがなければ出来なかったことですから。もともとマイナーの世界が好きな人間の集まりですから。

―アックスを作るにあたって、改めてどんな雑誌にしたいとかあったんですか?

 1つは原稿料を何とか払える雑誌にしたいねとは言ってたんですよね(苦笑)。少しでもいいから……。だけどそれも途中で挫折しちゃって。最初は少し払ってたんですけど、やっぱり採算とれなくなってしまいました。でも新しい人がどんどん入ってきて新しい漫画が集まればいいなと。
 商業誌でデビューする人はそれなりに大変だと思うんですよ、とにかく数字を上げないといけないし。システム自体が全然違うんで、数字が上がらないと切られちゃったりするじゃないですか。凄く厳しいし、精神的にも凄くハードな仕事だと思うんです。
 それとは逆に小部数、少人数であっても、自分の感覚で漫画を描きたい。メジャー的なやり方も分かるけれども、それじゃないやり方でやりたいって人も世の中にはやっぱり一掴みくらいはいると思うんですね(笑)。そこにはメジャー作家にも劣らない才能があるわけですから、それを放って置くのは勿体ない。だから「アックス」からまた新しい才能がが生まれていけばいいなという事でやってるんです。いくらマイナーとはえい、デビューしたらしたでこれも厳しい世界なんですが、そこはいろんな意味で貪欲にやって欲しいですね。


―むしろ踏み台にしてというくらいの気持ちで挑んでもらえればと?

 そうですね、「アックス」は最初から無理矢理売れ線の方向に作品を修正していくってことはそんなにしないですね。なるべく本人が描きたいものを描いてもらうって感じなんです。そうすると、果たして自分は売れるのかどうかっていう不安は作家の人は大きくなっていくと思うんですけど、そういうところで自分の力を試してもらって。だから全然踏み台にしてもらって構わないと思うんです。
 踏み台にしている間も作品は残る訳ですから、その作品で単行本を作らせて頂きますって事で。その単行本がアックスを出せる経費の大きな支えにもなってるんで。
 そういう「アックス」から出た人達が「アックス」を支えてくれると、また新しい人達が入ってきて。その人達がまた何年か経ったら、また新しい人たちを迎える為の支えになってくれればっていう構造になってると思うんです。即戦力、というやり方ではないので、1~2年の話じゃなくて5年から10年くらい時間をかけて力をつけてもらって世の中に飛び出していって下さいっていう感じです(笑) 
だから「デビューは何処ですか?」って聞かれたら、胸張って「アックスです」って答えて欲しいなって思ってるんですけど(笑)


―メジャー誌しか読んだことがなかった頃、心の中で「何かモノ足りないな」と思ってた時にあって。その時にアックスに出会ってビックリしたんですよ。「何だこれは?」って。こんなに魂が入った作品があったんだって。

そういって下さると描いてる人達はすごく喜んでくれると思いますよ。

―でもアックスを読んでる人なんて学年に3人いないくらいでした

 ですよね。なんか皆楽しんでる中、独りの世界をガーと掘り下げて浮いてるんですよね(笑)

―学校で読んでると「何読んでんの」って言われるんですけど、アックスを読んでることを知られたくないんですよね

 だいたい気持ち悪いって思われそうだもんね(笑)。あと、この世界はだれにも教えたくないという気持ちもあると思うんですね、そのころって。自分も「ガロ」の読者だったときにはそう思ってましたから。でもそういうのが好きなある一定の層っていうのは変わらないと思うんですよ。人数は減りつつも世の中にはそういう人たちっていうのは絶対いる訳だから。

―僕はそんなアックスを読んだおかげで、自分も何かしなくてはという衝動にかき立たれたんですよ。多分それは僕だけじゃないと思うんですね。

 それは作家さんの魂の熱さだと思いますよ。それに影響されて漫画とか音楽の道に行ったりする。そういう人たちがいっぱい出てきてくれるとホントに嬉しいんです。

―それで漫画を描くのが好きだったんですけど、ちゃんと原稿に描いてみようってなって。それで初めてちゃんと描いたのをアックスに投稿したんですよ。

 そうだったんですか(笑)

―もちろん落ちまして、今思えば全然面白くない作品なんですけど(苦笑)
 だけど、その応募したという行動を起こしたのは、結果はどうあれ自分の中では「何かが変わった」というのがあって、思春期の頃であれば大きな出来事だったと思うんですが。
 
 自分もそうだったんですが、若い頃ってもの凄く何かやりたいんだけど何やっていいのか分かんないじゃないですか。そういう時に私も出会ったのが「ガロ」だったり音楽だったりしたから。それで、とりあえず上京したいって気持ちだけがあって。上京して何やるんだって話なんですけど(笑)でも、そんなの決まってなくても若いから行動出来るじゃないですか。

―出来ないんじゃないかなって思ってたのが、とにかく「やってみよう」って変わったんですよね。それにアックスの作家さん達って漫画以外にも何か色々されてるじゃないですか、そういうのにも感化されちゃって。

 やっぱり漫画家さんって凄い才能を持ってないと漫画家になれないし、その才能を自由な形で発揮できるのがカウンターカルチャーの良いとこだと思うんですけど。
 カウンターカルチャーの人たちは売れるのにも時間が掛かるし、こちらも莫大な宣伝力など持っていないし、だからお金を稼ぐためには何でもやらなきゃいけない。だから完全に就職しながら描いてる人もいるし、漫画一本だけでやるって人はほんと数える程しかいないから。それで色んなジャンルの人が興味もってくれたりすると、例えば「CDのジャケット描いてくれ」とかそういう依頼も来ますから。そういうのに触発されたんだと思いますけど、そこから広がっていくっていうのもありますよね。好奇心旺盛で他のジャンルの人との交流が出来るのも、表現活動の刺激になると思います。漫画家さんは物語や何かを作ったりしなきゃいけないってのがあるから、想像力とかも凄いですから。
 でも、ホントに歌っても上手いし楽器やってもうまいし、「え、こんなことも出来るの?」ってビックリするくらい皆いろんな事やるし研究熱心だし、それが楽しいってのもあるんだろうけど。

―河井(克夫)さんとか色んなことされてますもんね(笑)

 そうですよね、もうちょっと前の先輩だったらみうらさんとか職業は何だってったら、もの凄いいっぱいやってるから、どれだ?ってね。もっと上の先輩なんかも「もっとそういうのやった方がいい」とみんな応援してくれるんで。

―もっとやった方がイイと?

 漫画だけでなく色んな事をやればいいっていうようなことは、林静一さんや南伸坊さんとお話していると、よくそうおっしゃいますね。「狭い世界だけに留まってちゃダメだ、飛び出して色んな事やれ」って。林さんもレコジャケや着物の柄から食器のデザインから切手までやられてるし。みなさん、絵本とか色んな活動を続けてますよね。だから才能はフルに活用しないともったいないじゃないですか(笑)。出発点はココであっても色々と広がりももっていった方がいいんじゃないかと思うんですよね。

―羽生生さんはそういう青林工藝舎の人達が羨ましいって言ってました。

 羽生生さんは工藝舎のイベントによく来て下さるんですよ(笑)。みんな普段は大人しい人が多いんだけど、だけど何かやると爆発して「え、スゲェ!」って(笑)。こんなパワー持ってんだって。漫画の中にもそれはもちろん現れてますけど、イベントなんかでは毎回こちらが驚いてるくらいです(笑)。

―以前、しりあがり寿さんの「さるハゲロックファスティバル」にお誘いしてもらったんですけど、ホント凄いですよね!忙しいのにロックフェスまでやっちゃうなんて(笑)

やっぱり行動力がすごいですよね。

―こんな大人になりたいなって思いましたもん。

 学生のときにクラスで「どうしたんだ?」てくらい浮いてる奴っているじゃないですか。みんなそうなんだと思います。それでこの世界に入って、「なんか居心地いいぞ」って場所をやっと見つけたっていう感じがあって。私が「ガロ」を初めて読んだときがそうだったんですね。何か妙に皮膚感が合う世界で「何だこれは?」みたいな感じで。そうすると他のモノよりももの凄く光って見える訳ですよね。集まってくる作家さんっていうのも割りとそういう感じの人が多いからもの凄い居心地が良いっていうか過ごしやすいっていうか。個性はバラバラですけど同じようなところを目指してるから作家さん達もみんな仲良いんですよ。世間のハズレ者として同じニオイがするんでしょうね

―アックスの皆さんって仲良いですよね。
 
 仲いいですね。感心するくらい(笑)。こっちもお金無いし年末はものすごく忙しいので、忘年会とか開けなかったら、若手の作家さん達が立ち上がってくれて。ここ最近は作家さん達が中心になって忘年会なんか開いてくれたりして、すまないなとは思うんですけど(笑)。漫画の仕事って独りでコツコツやるもんだから何か不安感みたいなのがあるんですよね。特に若い作家さんが言ってましたけど
「独りで描いてると不安だけど、同じ場所で描いてる作家さん達と話すと凄く勇気もらえる、安心する」とか。ほんと孤独な作業なんですよね漫画って言うのは。

―戦友といいますか・・・

 戦友というかよきライバルだと思います。それに、マンガ家に限らず、一人で頑張らなきゃいけない時期って人生の中で何度もあると思うんですが、同じ匂いがしている人が集まっていると、たとえ世間から批判されても仲間は同じ痛みをかかえてるわけだから、認めてくれるんですよ、悩まなきゃいねない時期だろからって。だから引きこもりだとかリストカットだとかいう記事を見るたびに、ああ、こっちの世界に出会ってくれれば、そんなとこまで行かなくて済むのになってよく思いましたけど(笑)

―自分の中でも「あの頃はヤバかったな」っていうのがありますもん、だから助けられたっていうのはありますよ。

 それが人によって音楽であったり演劇であったり色々あると思うんですけど、漫画も1つの形態として「こういう場所がありますよ」って。だからその場所作りに日夜懸命になっているわけですが、台所はいつも苦しくて、もう笑っちゃうくらいですね。アックスも卒倒するほど売れてないから(爆笑)。同業者の人から言わせると「何で売れない漫画をわざわざ見つけてきて出してんの」って。もし自分の会社の社員がそんなことをやってたら「仕事しないでいいから寝ててくれっていう」って(笑)

―はははは(笑)


◎これからのアックス

―ついに10年を乗り越えたわけですが、まだこの先どうなるか分からない状態なんですか?それとも、この先どうするか具体的なビジョンがあったり?

 いや、何とも言えないですよね、この混沌とした状態は。ネットとかケータイの漫画もあるじゃないですか? それが今すごい勢いで伸びてるとかいうけども、実情はなかなか厳しいらしいですよ。それこそ大ヒットしないと儲からないことになってるから。それにネットやケータイの勢いがずっと続くのか?って言われれば果たしてそれはどうだろうかとも思うし、紙はなくなるって言われてるけども、どうやら無くなりそうもないし。だから、そこの狭間でどういった形で生き延びていくかっていうのはまだビジネス的には分からない部分が多い。それに、ネットやケータイで配信するマンガと紙媒体のマンガってそろそろ分けて考えたほうがいいのかも、と思います。それこそコマ割りから何から変わってきますから、ネット配信のマンガはまた別の表現方法、と思ってます。それで、今の段階ではそちらにシフトすることはあまり考えていません。

―ははは、何か痛い目にあったことがあるんですか?

 いや、それなりの運営資金があればの話であって、「儲かるよ」って言われてそれで失敗した例もいっぱい見てきてますから。それを見て、やっぱり慣れないことはやらない方がいいんだなって(笑)。それはお金があっての話だろうっていうところだから、ビジネスってやっぱりその辺は厳しいですよね。

―じゃあ、今まで通りと

 基本的には変わらないと思うんですよね。変えようがないし・・・変えられないし・・・色んな意味で(笑)。やはり原稿用紙に描かれた肉筆ってすごい魅力があるんですね。迫力というか、その人のものすごいオーラというか、こちらにウワッと伝わってくるあの迫力に鳥肌立つときもあります。その人の魂が込められてますから。それはモニターを見せられたり、プリントアウトされたものを見てもあまり経験できないことだと思うし。

―変わって欲しくないってのもありますよ

だから、いかに今の状態を保っていくかっていうのが厳しいですよね。まぁ・・・ほそぼそとやっていこうと。出資してくれた人たちは「いいよ、いつ潰れても。10年もったんだから」って言ってくれるんですけど、そんな優しいこといわれちゃうと逆にそういう訳にはいかないと思ってしまう。会社の形態からいったら私なんてホントにちょっとしか出資できなかったから、形的には雇われ社長ですよね。でも自由にやられせてもらってるし。「刑務所の中」がヒットしたときは「良かったねー」って言ってくれて、「今年はダメでした」って報告したときも「残念だったねー、潰れなきゃいいね」って。そんな感じだからわりと楽しくやってますね。
 株主総会も毎年開くんですけど、大体5分くらいで終わってあとは飲み会だし。(笑)

―はははは

 だから、そういう雰囲気もいいんだろうなと思うんですよね。そこでガンガン言われて、皆シュンとしてお金のことばっかり考えちゃうと・・・雰囲気もあまりよくなくなるでしょ。まぁ、だったらそういう時は楽しくと。そんなふうに暖かく見守られているのでそれだけで幸せです。

―すごいですねー

だから10周年のパーティーも楽しかった。
来てくれた人もみんな「楽しかった」っていってくれて嬉しかったです。

―最後になんですが、どんな人にアックスを読んでもらいたいなどありますか?

 そうですね、さっき言ったように何がやりたいか分かんないけど何かやりたいとかそういう思いに駆られてる人とか、どうも自分は社会に馴染めないんじゃないかなって思ってる人に「いや、馴染める場所がありますよ」って。どこの方向にもっていいんだか分からないんだけども気持ち的にモヤモヤしている人に是非読んで欲しい。
 あと、漫画描きたいけれどもメジャー誌のような漫画じゃなくて・・・って思ってたらこちらに投稿してもらえればと思います。とにかくアックスを読んでもらえれば分かると思うんですけど個性がそれぞれ強烈ですから。1個も似たような漫画がないっていうのは珍しいんですけど、それが1つになってるから有機体みたいなものだと、生き物みたいなものだと思ってもらえれば。そこからはじけ飛んでもらえればと思うんですけどね。たぶんピンとくる人は見たとたんにピンと来ると思いますよ(笑)
 こないだ後藤友香(※1)さんが大学生になってから初めて「アックス」を近所の本屋さんで見たときに「漫画ってこんなに面白いんだ!」って思ったって言ってました。だから、ああいう世界を面白いと思えるものを持ってる人はやっぱり絶対にいると思うんで。
それを見つければ自分は何をやりたいかは少しは方向性が出てくるかもしれないし、モンモンを日々を過ごしている人たちにオススメです(笑)。

※ 1 後藤友香:アックスにて連載作家。著書に「正義隊」「正義隊2 悪の野望篇」。


手塚能理子

漫画雑誌『アックス』編集長、青林工藝舎・社長。
1955年10月24日宇都宮出身。 1979年に青林堂入社。1997年青林工藝舎設立。
著書「ビンボー自慢」他。
青林工藝舎公式ホームページ:http://www.seirinkogeisha.com


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